思い出の場所で…
『ふぅ…今日はもういらっしゃら無いのかしらね…』
辺りが薄暗くなって来きた時、ふと少女が洩らした…
今日はこの少女の誕生日、そして敬愛する兄が訪れてくるはずなのだが…
『ミカエル、もう中に入りましょう』
『バウ!バウッ!!』
暗くなってくるに連れて気温も下がってきた…
これ以上外に居ると病気が悪化してしまう…そう考えて少女は病棟へ戻ることにした。
『それにしても、兄上様はどうかしたのでしょうか…』
病室へ戻りながら来るはずだった兄のことを考える…
『まさか…!!』
『来る途中に何かあったのでしょうか!?』
ここの療養所に来るまでには、バス、電車など色々な交通手段を要する。
そのため事故にもあいやすいことは確かである。
しかし…
『でも、何も伝えられていませんし…』
そう、待合所にあるテレビでは丁度ニュースをやっていた。
そこでは事故の話などまったくしていない。
『大丈夫…ですよね?わ、私ったらなにを考えているのでしょう。』
思考を無理矢理止め、鞠絵は病室に戻ることにした…。
──その頃兄は…
『マズイなぁ…すっかり遅くなっちゃったよ〜…』
ここは電車の中、どうやら今、鞠絵のいる療養所へと向かっているらしい。
時計を見るともう5時を大きく回っていた…
『鞠絵のヤツ怒ってるかなぁ?って、怒らないほうがおかしいよな…連絡もしてないし』
約束の時間は一時である、確かにこれで連絡もしていないなら怒られても文句は言えまい
『とにかくいそがなきゃな…』
苛立ちを紛らわすかのように何度も時計を見る。
そして、何回目だか忘れるぐらいになったころ…
『おっ!付いた!』
『ふぅ…』
病室から見える景色を眺めながら、鞠絵はため息を付いた。
まだ諦め切れていないのか、ずっと入り口を見つめている…。
時計を見ると…もう7時になるころである。
『…もうすぐ門が閉められるわね。』
誰に話し掛けるでもなく、ふとそう言った…
『…ミカエル…もう寝ましょう…』
やがて、諦めたのかそう言い放った…
『きっと、なにか他にご用事があったのよね…』
自分に言い聞かせる様な感じで言う…しかし、その表情はとても淋し気である…。
窓を閉め、カーテンをして、いざ、電気を消そうとしたその時…
『……鞠絵…』
『えっ!?』
微かに聞こえた自分を呼ぶ声。
一体誰が…?
『鞠絵…起きているか?』
『その声は…兄上様!?』
急いで声のするほうへと向かう。
カーテンを開けると、窓の外に兄の姿があった…
『よかった…間にあったか…』
窓を開け、部屋のなかに兄を入れる。
『兄上様…その…』
『ごめんな…遅くなっちゃって』
『いえ…そんな…』
今は兄が来てくれたことで胸が一杯になっていた…。
『でも、どうしてこんな時間に?それに門は閉まってたはすでは…なぜ入り口から入って こられないのですか…?』
『ま、鞠絵…少し落ち着いて、そんなに一辺には答えられないよ』
『あ、す、すみません…』
兄が来てくれて興奮しているのが自分でも分かる。
しかしそれ故、少し混乱もしている様だった…。
『それじゃ、説明するよ?』
『は、はい…』
『実はね…プレゼントを考えていたんだ』
『プレゼント…ですか?』
プレゼントを貰うより、兄と一緒に居たほうが嬉しかったのだろう、少し残念そうに答え る鞠絵。
『あぁ…どうかしたの?鞠絵、なんか残念そうだけど?』
『い、いえ!なんでもないです!』
『そう…?えっと…それで、プレゼントが決まったのはいいけど、今度は中々見つからな くてさ』
『そうだったんですか…でも、よかったです兄上様が無事でいてくれて…私、心配したん ですよ?』
『あ、あぁ…ごめん…』
『そうだ!その…お詫びって訳じゃ無いんだけど、今日泊まっていっちゃダメかな?』
『えっ…!?』
兄の急な申し出に戸惑う鞠絵。
『でも…兄上様…明日は学校では…?』
『大丈夫だよ。間に合う様にいくからね!』
『そう…ですか、それでは、是非泊まっていってください!』
『良かった、断られたらどうしようかと思ったよ』
『そんな…!断るなんて…』
『ははは、冗談だよ』
『もぅ…兄上様ったら…』
そんなことを言い合いながらも鞠絵は嬉しそうである。
やはり兄がいてくれるのが嬉しいのであろう。
『なぁ…鞠絵?』
『はい?なんでしょう?』
『今から外にいけるかな…?』
『今から…ですか?』
夜の外出は禁じられている、許可を取らないかぎり行けないのだ。
『兄上様…その…』
『許可は貰ってはいるんだけど…鞠絵の体調はどうかな?』
『それなら大丈夫です!行きましょう!』
こうして二人…いや、二人と一匹は外に出ることにした。
『風が気持ち良い…』
『本当だね、凄く気持ち良い。』
二人の周りを吹き抜ける風は、とても心地よく優しい風だった…
『鞠絵…少し歩こうか…?』
『はい…』
二人は街道へ向う…ここは前に鞠絵が兄と二人で歩いた場所であった…
『また来てしまいましたね…』
『うん、ここは良い場所だからね。』
『でも…』
『…………?』
鞠絵が言った否定の言葉に疑問を持つ兄。
さらに、鞠絵は言葉を続ける…
『たとえどんなに美しい場所でも…兄上様がいなければ私は嫌です…』
『鞠絵…』
優しい風と共に鞠絵の想いが兄へと運ばれていく…
それは兄にとって嬉しくもあり、切なくもあるものであったに違いない…
そうだ…
鞠絵はいつも一人だった…。
僕たちが学校にいってる時、家に居る時も…そんな淋しい思いを一人だけ味わってきたん だ…。
『ゴメンね、鞠絵…』
『そ、そんな…謝らないでください。そんなつもりで言ったのではあらませんから…』
深緑の街道の中を吹き抜ける暖かい風…
『…………。』
『…………。』
二人はなにも喋らない…。
『もうすぐ…夏ですね…』
不意に鞠絵がそう言った。
『そうだね…』
『夏になったら…』
『ん?』
途切れてしまう声。
もう一度、真っすぐな眼でこちらを見ながらはっきりと言う…
『夏になったら…私と海に行って下さい…』
『そうだね…そうしよう。海にいって、またコレを探してこよう!』
『コレ…?』
不思議そうに問い返す。
兄の手の中には、小さな貝殻が握られていた…。
『今日は…これを探していて遅れてしまったんだ…』
『この貝殻は…』
『そう、小さい頃、僕と鞠絵が一緒に見付けたあの貝殻だよ…』
その瞬間あの日のことが浮かんできた…
まだ鞠絵自身が元気だったあの頃…
。 二人で浜辺を駆け回り、この貝殻を見付けたのだ…。
『兄上様…』
『早く鞠絵が元気になって、また一緒に貝殻を見付けることが出来るようにするお守り』
『ありがとうございます…私頑張りますね…』
鞠絵の頬に一筋の涙が流れ落ちた…
『鞠絵…』
『私…なんだか嬉しくて…』
そう言う鞠絵の言葉を聞きながら、兄は涙の筋を優しく撫でてやった…。
『僕は信じてる。鞠絵はきっと良くなることを。そして、ずっと一緒にいることが出来る ことを…』
『はい…』
そして…二人の影はゆっくりと重なる…
その胸に希望と言う光を宿しながら…
‐fin‐
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