〜愛憎の恋愛劇〜 by弓月




突然で悪いけど。

男って生き物は、自分に無いものを求めるのじゃなかろうか。征服欲云々の話ではなくて。
だから、思春期の男であれば誰でも経験したと思うけど、女子の胸元を見てドキドキするのではなかろうか。
女っていう概念は、男には無いもの。
だから、男は女を求めているのではないかな。
例外もいることにはいるが。

でも、自分に無いものを求めるのは、女だって一緒かもしれない。
そうでないと、説明がいかなくないか?
女だって、自分に無いものを求めているんだよ。
だから。
だから、だよ?

女装した挙句、すんげぇでかい胸をつけてあゆと手をつないで歩いているっていうこの状況も、納得がいくのではないか?


・・・・・・・・・男一匹、相沢祐一。ハタチ前に人生を誤った感が致します。ごめん、かあさん。


あゆと商店街を歩く。通りなれた商店街だから、知り合いに会わないか実はびくびくしていたりする。
嬉しそうに(ニタニタしながら)手をつないで歩くあゆ。傍から見れば、仲の良い姉妹、といった感じだろうか。
横を見れば、ニタニタ顔のあゆ。下を見れば、自分の胸に付けられた巨乳。
あれだけ炭水化物を摂取しているのに、なんら進歩の跡が見受けられないあゆの胸に目がいく。
ふと、特殊メイクで本物そっくりに付けられた自分の巨乳(Fカップ)を揉んでみた。
うん、意外と柔らかい。ブラ越しだけど、柔らかさが良くわかる。
自分の胸の感触をしばらく堪能したあと、あゆに話しかける。
「ほんとおまえって、昔からかわんないよな」
そういうと、何を勘違いしたのか、「えへへー」とか、「祐一くんだってかわんないよ。あのころのまんまだよ。」とか頬を赤らめてクネクネしながらほざいた。
いっておくが、俺、女の姿なんですけど。あなたの視力は大丈夫ですか。

最近、自分という存在が、CGかなんかではないだろうか、とか思ってしまう。
今の俺の姿は、完全に女だ。
話せば長くなるが、この間水瀬家で行われたトランプ大富豪で俺が最下位になってしまい、その罰ゲームとして女装して町を闊歩する羽目になった。
ちなみに、一位はぶっちぎりで秋子さんだったのは言うまでも無い。
嬉々として女装させたのも、秋子さん。
ハリウッドもびっくりの特殊メイクが、なぜ彼女に可能なのか誰か教えていただけないだろうか。
そして、ご丁寧にヴォイスチェンジャーが一般家庭にある理由も。
そんなこんなで、嫌がる俺を謎ジャムでおとなしくさせてから小一時間後、俺は女の姿になっていた。
姿的にはというと、おとなしめの服装に、大きな胸。色気をかもし出す化粧。いわゆる、おねぇさん系。
これは、二位で大富豪を終えたあゆのリクエストだったらしい。
ちなみに、謎ジャムを食わされてから、女装させられている間のまったく記憶が無い。
っていうか、口移しで謎ジャムを食わせるのは反則です、秋子さん。

「おす、あゆちゃん。元気〜?」
呑気な声、そそり立つアンテナ。
その傍らには、いかにも「妹なんていません」とか言ってそうなウェーブのかかった長髪の女性。
ノルマの商店街〜学校コースを終えて帰路に着こうとしたとき、北川と香里にばったり会ってしまった。
「北川君に香里さん。こんにちわ」
なぜ香里だけさん付けなのか。
「おす」
北川よ、お前はそれ以外挨拶は知らないのか?
「こんにちわ。あゆちゃん元気そうね・・・そちらの方は・・・?」
香里が俺に怪訝そうな目をちらりと向けた。女の感、ってヤツかもしれない。
何か違和感を感じているのだろう。

そのとき、これまで何事も起こらなかったんだから、北川で少し遊んでやろうという気持ちが芽生えた。
ヤツが変な行動をしたら、その後でたかる材料になるからだ。脅す、とか弱みを握る、といった表現もあることにはあるが。
さっそく、行動に移す。まずは下準備から。
(オレダ、アイザワダ)
俺は、あゆの陰に隠れながら口を動かした。もちろん音は出さない。
俺の唇の動きを見て取った香里が、驚いた、という表情をする。
(アイザワクン、ソンナシュミガアッタノ?)
(イヤ、アトデジジョウハセツメイスル。ソレヨリ)
(ダマッテロ、ッテコトネ)
素晴らしきかな、読唇術。たまには怪しげな通販に手を出してみるもんだ。
(チナミニ、ツウハンデオボエタノ)
つーか、香里。お前も通販なのか。

俺は、髪をかきあげて首筋を強調しながら北川のほうへ歩み寄った。
「はじめまして」
「は、はじめましてぇ」
突然話しかけられた北川が素っ頓狂な声をあげる。アホめ。
「私、祐一君の従姉で、相沢・・・ねゆきっていいます。あなたが、北川君ね?祐一君からお噂はかねがね」
名前は、適当。漢字で書くと寝雪だが、まぁ北川は馬鹿だから気付かないだろう。
「は、はい。でも、相沢のヤツ、なんていってましたか?」
「やさしくて、頼りがいのある男だって誉めてたわ」
「マ、マジですか!!」
なんて現金なヤツ。なんつーか、こう、哀れ。
香里にいたっては、笑いを噛み殺した顔をしている。
「いやー相沢のやつ、いつも宿題やってこないから、見せてやったりしてるんですよ」
「へぇ」
俺が宿題を見せてもらってるのは香里だったはずだ。あとで殺すリストに加えておこう。
「いつも昼飯とかおごってやってるし」
「ふぅん」
お前におごってもらったことは無いぞ。殺すリストNO.1決定。おぼえてろ。
「いやー、相沢が誉めてましたかー。いやー光栄だなー。おかげでこんな綺麗なおねぇさんに会うことが出来て」
「私もうれしいわ」
北川は頬を赤らめたり、「いやー光栄だなー」とかいいながら挙動不審ぶりを見せている。

なんというか、予想外の効果の上がらなさに、少し失望した。俺的にはもっとトチ狂った北川が見れると思っていたからだ。
所詮、アホをからかったところでムダだと気付いただけでもよしとするか。
もう、帰るか。そう思って、あゆに声をかけようとしたところであることに気付いた。
あゆがいない。

とか思っていたら、商店街のほうから、土煙が上がっているのが見えた。
お決まりの台詞が聞こえる。
あぁ、あゆ。お前、またやったんだな。俺が北川をからかっている間、腹が減ったんだな。
でもって、あのシーンを再現してるんだな?一人で。

「うぐぅ〜、どいてぇ〜!!」

口には鯛焼き。左手には、炭水化物比率の高そうな紙袋。
そして、お決まりの衝突。
そのときの衝撃でわかったことだけど、コイツ体重が増えてやがる。着実に。

「アイタタ、転んじゃった」
とか言いながら、北川をだます行為を続けるあさはかな俺。
埃をはたきながらたちあがると同時に、北川が絶叫した。


「あ、あ相沢ァッ!?」
「相沢君、カツラとヴォイスチェンジャーが・・・」
「まて、北川。これには深いわけが・・・」
「よ、よ、よるなぁ〜っ!!」

後日。
北川に誤解を解くために女装したまんまで追っかけていった俺は、多数の人にその姿を見られてしまい、結果として学校に伝説を残した。
"ホモのカップル・愛憎の恋愛劇"と。





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